土井善晴 『おいしいもののまわり』

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おいしいもののまわり
おいしいもののまわり
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土井 善晴
グラフィック社
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NHKの料理番組でお馴染みの料理研究家、土井善晴による随筆を読む。調理方法や食材だけでなく食器や料理道具など、日本人の食全般について綴ったものなのだが、素晴らしい本だった。食を通じて、生活や社会への反省を促すような内容である。テレビでのあの物腰おだやかで、優しい土井先生の雰囲気とは違った、厳しいことも書かれている。土井先生が料理において感覚や感性を重要視していることが特に印象的だ。

例えば調理法にしても今や様々なレシピがインターネットや本を通じて簡単に手に入り、文字化・情報化・数値化・標準化されている。それらの情報に従えば、そこそこの料理ができあがる。それはとても便利な世の中ではあるけれど、その情報に従うだけでいれば(自分で見たり、聞いたり、感じたりしなくなってしまうから)感覚が鈍ってしまうことに注意しなさい、と土井先生は書いている。これは尹雄大さんの著作『体の知性を取り戻す』の内容と重なる部分があると思った。

本書における、日本の伝統が忘れらさられようとしているという危惧と、日本の伝統は素晴らしいという賛辞について、わたしは一概には賛成できない部分があるけれど(ここで取り上げられている「日本人の伝統」は、日本人が単一の民族によって成り立っている、という幻想に寄りかかっている)多くの人に読んでほしい一冊だ。

とにかく至言が満載なのだ。個人的なハイライトは「おひつご飯のおいしさ考」という章。ここでは、なぜ電子ジャーには保温機能がついているのか、を問うなかで日本人が持っている「炊き立て神話」を批判的に捉え「そろそろご飯が温かければ良いという思い込みは、やめても良いのではないかと思っている」という提案がされている。これを読んでわたしは電撃に打たれたかのような気分になった。たしかに冷めていても美味しいご飯はある。電子ジャーのなかで保温されているご飯の自明性に疑問を投げかけることは、食をめぐる哲学的な問いのように思える。

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フィリップ・K・ディック 『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』

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アンドロイドは電気羊の夢を見るか? (ハヤカワ文庫 SF (229))
フィリップ・K・ディック
早川書房
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SFの古典的傑作を読むと、ああ、わたしってSFに対して不感症なのね、と感じることが多々あるのだが、これは面白かった(本書を原作としている映画『ブレードランナー』は未見)。第三次世界大戦(核戦争後)、人間がマシンで気分をコントロールできるようになっていたり、人間と見分けがつかない精巧なアンドロイドがいたりする未来の話なのだが、ディストピア感満載で、アンドロイドの存在も可哀想だと思ったし、さらには人間ってなんて可哀想な存在なんだ……と思う。主人公を仕事に向かわせるモチヴェーションがなんとも矮小で、しょうもないじゃないですか。そこが余計に悲しくて。いかめしいSF設定のなかで、そういうサラリーマンのつらさみたいなものを見せられるギャップが面白いと思った。

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MacBook Pro 13インチ(Mid 2012)のSSD換装をおこなった日記

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妻が使ってたMacBook Pro(13インチ Mid 2012)のHDDが壊れたようなので自分でSSDに交換した。

購入したもの

Transcend SSD 256GB 2.5インチ SATA3 6Gb/s MLC採用 3年保証 TS256GSSD370S
トランセンド・ジャパン (2015-04-30)
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SSDって256GBで今1万円切っちゃうんだな……と驚愕しながら購入。

アネックス(ANEX) ヘクスローブドライバーT型 T6×50 No.6300
兼古製作所
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SSDに本体固定ネジをとりつけるために使う。

アネックス(ANEX) 精密ドライバー プラス00×50 No.3450
兼古製作所
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本体の裏蓋をあけるのに使う。家にドライバーはあったが念のために買った。

交換手順

10分もかからないで交換は終わる(もっとめんどうかと思ったら拍子抜けするほど簡単だった……)。シンプルで迷わないMac Book ProのSSD交換手順~その3~を見るとわかりやすい。読まずに進めたら、本体固定ネジを付け忘れた。

ジーニアスバーに持ち込んだらHDDの交換しかやれない、というので今回自分で換装してみた。結果的に元の容量(500GB)から半分の容量になったとはいえ、普通にジーニアスバーで修理すると15000円ぐらい取られるところを、1万円ちょっとで修理できたし、起動も速くなったので良かった。

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モーリス・メルロ=ポンティ 『眼と精神』

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眼と精神
眼と精神
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モーリス・メルロ=ポンティ
みすず書房
売り上げランキング: 48,000
現象学って全然知らないジャンルだったんだが、たまたま古書で安く手に入ったので読んでみた。メルロ=ポンティの『眼と精神』は講義録・講演録を中心とした一冊(「人間の科学と現象学」、「幼児の対人関係」、「哲学をたたえて」、「眼と精神」を収録。表題作は彼の生前最後に出版されたものだという)。てっきりとんでもなく難しいものかと思っていたけれど、なるほど、現象学ってそういう流派だったのね、とエッセンスがつかめる本かもしれない。とくに「人間の科学と現象学」はメルロ=ポンティによるフッサール入門みたいであった。世界には真理が存在していて、その真理を求めて「世界はなんであるのか」と記述するところからはじまるのではなく、「世界がなんであるかを記述する前提はどんなものであるのか」からはじまるのが現象学だったのかな、とか思った。

「眼と精神」は、芸術論でありながら、感覚・意識・身体論なのだろう。画家がどのように世界を捉えるのか、絵画とはどういう性格を持つものなのかが論じられているんだが、普通の人が考えるような視覚のモデルが逆転的に扱われている。普通の人は、視覚というものを目からイメージが入ってきて、意識のスクリーンに投影されるようなモデルで理解していると思う。しかし、メルロ=ポンティは画家が絵を描くときに、意識が描くものを取りにいって、その結果としてのアウトプットが絵になっている、的な感じで考えている……あってるかどうかわからんが、そういう感じで読んだ。哲学の言葉で書かれているからスーッと読んでしまうと、ただ目が文字の上をすべっていくだけになってしまうのだが、立ち止まりながら読むと、感覚的に「たしかに世界の見え方ってそういう風に記述できるかもなぁ」と腑に落ちる部分があり、面白い読書だった。もう少し読んでみるかとも思う。

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辻静雄 『フランス料理の手帖』

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フランス料理の手帖 <辻静雄ライブラリー 1>
辻静雄
復刊ドットコム
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辻調理師専門学校の創設者、辻静雄によるエッセイ集を。収録されている文章の初出は1971 - 1972年に『婦人画報』へと寄せたものがメインとなっているという。それから40年以上が経ち、日本におけるフランス料理をめぐる環境はまるで別物であるはずで、おそらく世界で一番にリーズナブルに美味いフランス料理が食べられる都市は東京なのでは、という気さえする、つまりは日本人も日本にいながら「ホンモノのフランス料理」を体験できるようになっている。けれども、この40年前の文章が醸し出す、高踏な「ホンモノ感」は未だに恐るべきものだ。

伊丹十三と辻静雄、このふたりが書くホンモノの外国(もっと狭い言葉を使えば、ホンモノのヨーロッパ)には、我々は永遠に追いつけないのではないか。もちろん、彼らが書いた外国は、もうすでに存在しないパリであり、ローマであり、ロンドンであり、ニューヨークなのだ。(過去の都市の様相を切り取ったものに過ぎない)。しかし、だからこそ、日本人が考える外国の理想形としてあり続けるのかもしれない。もはや存在しない理想の外国が、彼らの文章の中には存在する。

さすが、元新聞記者で、文学を勉強していただけあって、文章もめちゃくちゃに上手い。食とどう向き合うのか。日本の食文化を変えるきっかけを作ったひとりの求道者からは、いまだに学ぶべきところがある。大名著。あまりに高踏的すぎて「はっ、お前らの食べているフランス料理なんか所詮ニセモノ、俺が食べているモノがホンモノなのだ」と過去の地点から言われる気がするが、やむなし。もはやこういう文章を書くことが許される人間もいないのだろうな……。

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ニッコロ・マキアヴェッリ 『君主論』

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君主論 (岩波文庫)
君主論 (岩波文庫)
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ニッコロ マキアヴェッリ
岩波書店
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ビジネス書として読まれる古典のなかでも、マキャヴェリの『君主論』は、もっとも著名な一冊のひとつであろう。だいたいの人がリーダーシップについて書かれた本として読むんだろうけれど、実は全然違っていて普通に歴史の本なんだと思う。ちょうど岩波文庫に入っているマキャヴェリの本には『フィレンツェ史』があるけれど、あれと同じで、勤め先のメディチ家に向けて、歴史を振り返りつつ、昔のえらい人はこういうので成功したり、失敗したりしたんで、参考にしてください、的なことを書いた本。

というわけだから、リーダーシップ本みたいなのを期待すると普通に幻滅すると思うし、そういうのを求めてるんだったら、古典を読む必要って全然ない(日経文庫の『リーダーシップ入門』でも読みましょう)。当時のイタリアが置かれていた状態とか、西洋史をそこそこ知ってないと、あんまり面白くないんじゃないのか。組織をどういう風に動かすか、部下をどんな風に使うのか、みたいな話なら『韓非子』のほうがもっと直接的で役に立ちそうだ。

ただ、書いてあること自体は結構面白いと思うんだよ。マキャヴェリがサイコー!と褒めそやしているのは、チェーザレ・ボルジアという人で、この人はとにかく敵の親玉を支持している人を懐柔したり、自分に反旗を翻した人の連合をバラバラにして勢力を弱らせといて叩く、みたいな政治巧者だったりしたらしい。不幸にも権力者であった父親のローマ教皇、アレクサンドル6世が亡くなるのと同じタイミングで健康が悪化し、一挙に権力の座から転落していってしまうんだけれども(一説には両者ともに暗殺)、そういうのがなかったら、マジでサイコーだったのにさぁ、とマキャヴェリから振り返られている。

あと、敵の土地を占領したら徹底的に痛めつけるか、逆に徹底的に良い思いをさせて統治しろ、とか言ってたりする。中途半端が一番良くない、と。半端に痛めつけるとすぐ反乱を起こすから、やる時は徹底的にやっておけ、容赦すんな、みたいなのが、マキャヴェリのいう良い君主のあり方には含まれてる気がする(基本的には、君主 = 戦争の親玉、で敵との戦いにどう勝つのかが前提となっている)。

Amazonのレヴューでは、翻訳がクソと叩かれまくっている岩波文庫版だが、読みやすくはないけども、特別読みにくい日本語ではないと思う。「原文が透けて見えるような日本語」とはこういうのを言うのだろう。これにブーブー言ってる人は、漫画でわかる『君主論』みたいなものを読んでおけば良いのでは……という気さえする。まぁ、えらい先生のお仕事、ってこういうもんでしょう。

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沼上幹 『組織デザイン』

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組織デザイン (日経文庫)
組織デザイン (日経文庫)
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沼上 幹
日本経済新聞社
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先日のエントリーに引き続き、仕事関係の本を。先日読んだブログ記事「実際に読んで選んだマネジャーのための100冊」からもう一冊選んで読んでみた(だいたい仕事関係の本を読みたくなるのは、ちょっと仕事の内容が変わりそうだぞ、っていう感じの時である)。

組織のデザインをする立場の人に向けて書かれた入門書的な一冊で、中身は大学の経営学科で学ぶような企業組織論の基本がわかる本。組織のデザインをおこなう仕事についている人っていうのは、ごくごく少数の限られた人であって、社会に生きている人の圧倒的大多数の「デザインされた(あるいは自然発生した)組織に所属して仕事 / 生活をしている人」には無用の本……というわけではない。わたし自身もまたデザインされた組織に所属しているだけの人間だけれども、読みながら「なるほど、会社の組織で働くってこういうメカニズムなんだ」とか振り返るきっかけになって良かった。別に、組織がどんな風にわかれているかなんか知らなくても仕事はできるんだけど、こうして振り返ることから変えられるモノってある気がする。

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クリストフ・ポンセ 『ボッティチェリ《プリマヴェラ》の謎: ルネサンスの芸術と知のコスモス、そしてタロット』

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翻訳のお手伝いをした本。全ページフルカラーで装丁も大変に美しいのにお値段が税抜2600円と驚きの価格。担当された編集者の方にお話を伺ったら最近は、安い紙の素材がでてきたり、DTPで編集作業が楽になったおかげでこういう値段で売れるようになったそうな。ありがたいことでございます(手に取った瞬間、ありな書房の本かと見紛いましたが、ありなだったら6000円ぐらいしそうだよ)。現在、上野で開催中のボッティチェリ展でも買えるそうです。

著者のクリストフ・ポンセは、Webサイトの制作やテレビ番組のプロデューサーなどをやりながら、マルシリオ・フィチーノの研究をしている研究者。日曜研究者ともいうべき人なのだが、そういう人がこうした研究書を発表できるのがスゴいと思うし、逆に、在野の人だったからこそできた仕事なのかも、とも思う。ボッティチェリの《プリマヴェラ》という超絶的に有名な作品の解釈については、これまでに数多の解釈や研究がおこなわれている。そうした先行の研究をおさえながら、一枚のタロットカードを鍵として新たな解釈を提示している。

とにかくこの本、すごい作りが良くて。図版を豪華に使い倒しているおかげで、著者が言いたいことがめちゃくちゃにわかりやすくなっているので、図像解釈学の入門としても良いんでは、と思う。。

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ロベルト・ボラーニョ 『野生の探偵たち』

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野生の探偵たち〈上〉 (エクス・リブリス)
ロベルト ボラーニョ
白水社
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野生の探偵たち〈下〉 (エクス・リブリス)
ロベルト ボラーニョ
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チリ生まれの小説家、ロベルト・ボラーニョの長編を読む。70年代のメキシコにおける前衛詩人のグループを描いた青春群像劇……として読むこともできるのだが、読む人によって小説の内容の理解が大きく異なるんじゃないか。

3部構成の1部と3部は、詩人を目指している若者の日記という形式で書かれているのだが、メインとなっている2部は、前衛詩人グループのリーダー格だった2人の詩人(うち、ひとりはボラーニョ自身の人格が投影されている)について総勢50人を超える人物がインタヴューに応えているという形式になっている。物語の主人公はたしかにリーダー格の2人なのだが、彼らは常にだれかの語りのなかでしか登場しない。なにか物語の中心がぽっかりと空位になっているのだが、空位だからこそ、逆説的に中心の存在が際立つようである。で、小説のなかにはタイトルにある「探偵」はでてこない。読者自身が探偵のように、物語の謎を追うようなしかけになっている。

Wikipedia(英語版)のボラーニョのページによれば、本作がコルタサルの『石蹴り遊び』と比較されているというのだが、それも納得(あとキューバのホセ・リマという作家の『楽園』の比較対象にあげられている。ホセ・リマの小説は翻訳がない)。『石蹴り遊び』のように断片がバラバラに散りばめられているのではなく、時間の流れは直線的に進んで行くので『野生の探偵たち』のほうがかなり読みやすい。ただ、なにせ50人以上の語りだから、語りの種類は一辺倒でなく、かなり多様だ(インタヴュイーのなかには、主人公そっちのけで奇妙な半生を語りだす人物もいたりして)。そういう語りが咲き乱れっぷりがすでに面白い。全体としても面白い小説だし、全体を作るひとつひとつのパーツも面白いのだ。

スゴい作家だとは聞いていたが、小説はこんな風に書けるのか(こんな小説の読ませ方があるのか)と魂消るような作品であった。

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