村上満 『ビール世界史紀行: ビール通のための15章』

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ビール世界史紀行 ビール通のための15章 (ちくま文庫)
村上 満
筑摩書房
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サントリーのビール生産・開発に長年携わっていた偉い人が書いた、ビールの歴史と世界史を並行して語る、という本。ライトな読み物、と見せかけて、かなりヨーロッパの歴史について調べていて大変読み応えがある。イギリス、ドイツ、ベルギー、というヨーロッパの3大ビール生産地を中心に、それらの国でどのようにビール造りが始まり、発展し、そしてそれが国の政治や経済とどのように関わり合っていたのか、を詳述している。「酒飲みのための読みモノ」としては中級クラスの本で、ビールの醸造過程の基本をこういう本で押さえてから読むとなお面白く読めると思う。

冒頭、日本にビールが伝来し、国産ビールの生産が始まるまでの話から始まるのだが、これがまた面白くて。明治時代に本格的に海外からビールの輸入が始まったとき、日本市場でトップシェアを占めていたのが、あのバスエールだった、というのがまず驚きだった。現代の日本で飲まれているビールといえば、下面発酵のラガー・ビールであるのだが、当初は上面発酵のエールが人気であったのだ。それがいつしか逆転し「ビールといえば、ラガーだ」ということになっている。

低温で発酵が進むラガー・ビールは、高温多湿の日本において、雑菌の増殖を抑えることができ、衛生管理が楽だから、盛んに作られるようになったのだろう……というところまでは、わたしもなんとなく予想していた。しかし、本書はこのエールからラガーへの転換の理由をそうした製造上の問題だけに見ていない。この転換のきっかけに、普仏戦争におけるプロイセンの勝利があったのではないか、と著者は言う。この歴史的出来事が、これからの日本が見本とするのは憧れの先進国であるイギリス(エールの国)ではなく、ドイツ(ラガーの国)だ、という方向転換をさせたのだ、と。

この説を補強するように、森鴎外などの明治人がドイツ留学中にどんな風にビールを楽しんだのかが紹介されているのだが、これまた面白い話が満載(ドイツびいきでビール大好きだった乃木希典が部下たちに連続イッキ飲みを強要していた……だとか)。ほかにもイギリスとドイツのビール文化の比較から、パブで静かにエールを飲むイギリスの文化よりも、ビアホールで豪快にラガーを飲みまくるドイツの文化の方が日本にあっていたのではないか、などとも語られる。

書いているのがメーカーの人というのもあってか、現代の業界事情についても詳しく勉強になった。ビールは値上げがしにくい品目だから、ビール・メーカーにとっては全然儲からない商品なのだという話が面白かった(さらに税金がちょいちょいあげられると、売り上げに悪影響が生じる)。

発泡酒、第三のビール、ノンアルコールビールの開発が盛んだけれども、こういう税金も安くて儲かる新ジャンルで稼ぐしかないからなのか、と非常に納得が言ってしまった。わたしはこうした、いわゆる「新ジャンル」の商品って「安かろうマズかろう」だと思っているし、「不真面目な商品」だと思ってきた。儲かるのはわかるけれども、ビール・メーカーは真面目なビールを造るのが本分でしょうが、と。

しかし、「普通のビールは儲からない」とわかると「不真面目な商品」で稼げるからこそ「真面目なビール」造りもできるのかな、と思いなおしたりもする。新ジャンルのヒットがなければ、面白いクラフト・ビールみたいなものも作れないのかも(考えたら、新ジャンルでヒット商品を出してるメーカーは、パンチのあるビールも作ってる気がする)。

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