カルロ・ギンズブルグ 『裁判官と歴史家』

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裁判官と歴史家 (ちくま学芸文庫)
カルロ ギンズブルグ
筑摩書房
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1972年のミラノでルイージ・カラブレーシ警視が何者かに射殺される。犯行は、被害者が取り調べ中にアナーキストを殺したと主張する左翼活動家や極右主義者による報復かとみなされたが、具体的な容疑者が固まらないまま、16年の時が流れる。そして、1988年。激しく反カラブレーシ・キャンペーンを展開していた新左翼グループ《継続闘争(Lotta Continua)》の元メンバー、レオナルド・マリーノが警察に出頭し、カラブレーシ暗殺に関わったという供述を始めたところから事件は急展開する。

暗殺はグループの指導者たちによって計画・支持されたものだ、というマリーノの供述にもとづき、警察は、殺害を委託した男2人と実行犯の男を逮捕する。このなかに歴史家、ギンズブルグの親友、アドリアーノ・ソフリがいた。ギンズブルグは、この事件の裁判の記録を事細かに読み直し、歴史家として一冊の本を上梓した。それが本書『裁判官と歴史家』だ。

ソフリの無実の主張をギンズブルグが確信するに至ったのは、裁判の記録に残された数々の矛盾である。マリーノによる供述もいたるところにチグハグな部分があり、裁判所で証言をおこなった警察関係者もなにかを隠しているらしい。事件現場に居合わせた人々が裁判所に呼ばれ、証言をおこなうが16年の歳月によって記憶はおぼろげになっており、ハッキリとしない。ソフリが有罪だ、と確定的に示す証拠は明らかに足りていない。にも関わらず、裁判所はソフリに有罪判決として、禁固22年の刑を下す。裁判所がまるでなにかの都合に合わせたかのように証言を解釈し、あらかじめ予告されていたようにも見える有罪判決に、歴史家は自らのキャリアの出発点である魔女裁判を重ねている。

ジャーナリスティックな一冊、としても読めるのだがギンズブルグはただ単に陰謀すら想起させる権力の働きを告発するばかりではない。記録を読み、解釈をおこなう裁判官と歴史家の非常によく似た仕事を比較しながら、両者の仕事に含まれる性格をくっきりと浮かび上がらせていく。そういう意味では、本書も『チーズとうじ虫』と同様に、歴史学の方法論について書いた本として読むことができるだろう。

なお、ソフリは一貫して無実を主張し続け、最高裁まで争ったが(マリーノの主張の矛盾を明らかにする証拠が新たに提出されたにも関わらず)判決は覆らず、2012年に刑期を終えている。

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