スキップしてメイン コンテンツに移動

投稿

9月, 2015の投稿を表示しています

安部公房 『砂の女』

砂の女 (新潮文庫) posted with amazlet at 15.09.30 安部 公房 新潮社 売り上げランキング: 753 Amazon.co.jpで詳細を見る 生前はノーベル文学賞候補とされ、かなり惜しいところまで行っていたという安部公房の作品を初めて読む。いや、さすがに面白いんですね、と思った。ミステリアスだし、エロいし、話の運び方や、メタファーも冴えている。すごい作家だったんだな。読んでいて、ああ、これも諸星大二郎なのかな〜、とも思った。諸星の『夢の木の下で』ってものすごく『砂の女』みたいな空気感ありませんか。

チャーリー・パパジアン 『自分でビールを造る本: The Bible of Homebrewing』

自分でビールを造る本―The Bible of Homebrewing posted with amazlet at 15.09.30 チャーリー パパジアン 浅井事務所発行(技報堂出版発売) 売り上げランキング: 69,914 Amazon.co.jpで詳細を見る はてなブログで こんな感じに 今年の初夏ぐらいからビール批評(というか、飲んだビールに関する簡単なメモの集積)をはじめているんだけれど、もうちょっとビールのことが知りたいな、と思っていたところに見つけた本。1984年にアメリカで書かれたホームブルーイング(自宅でのビール醸造)に関する入門書である。さすがのDIY大国、アメリカ。自宅でのビール醸造が割と一般的なホビーになっているんだって。東急ハンズなんかにいくと、自作ビールキットが売っているのを見かけるのだが、本書ではそうしたキットを使って美味しくビールを作る方法から、モルトからウォート(麦汁のこと)を作って1からビールを作る方法まで包括的にとりあげている。 いっちょホームブルーイングやってみっか、という気持ちで読み始めたわけではないんだが、大大大名著だったのでビール好き全員にオススメしたい。ビール造りの基本の基本については先日紹介した 『うまい酒の科学』 にも掲載されている。そこからさらに足を踏み込むにはうってつけの一冊であろう。醸造に使う器具、ビール酵母の種類、ホップの種類、大麦以外に使う穀物の種類、そしてそれらの使い方と効果、世界のビールの種類と製法、それらが読みやすく面白い文章で説明されている。レシピですら面白いんだから、ちょっと驚異的である。とにかく、ホームブルーイングという趣味の魅力を余すとこなく伝えている。気合の入ったホームブルワーのなかには、シメイの瓶の底に残ってる酵母を自分で培養して、その酵母でシメイを再現する猛者もいるらしいが、そこまでする面白さが本書から理解できる。 歴史的なウンチクも良い。アメリカではバドワイザーみたいなライトタイプのビールが主流だが、禁酒法以前は国内で2000種類以上のビールが作られていたんだって(禁酒法によって、大手の醸造所のみが生き残った結果、ライトタイプのビールばっかりになってしまった、とか)。世界的にマイクロブルワリーのブームが来ているみたいなのだが(特に

大河原邦男 『メカニックデザイナーの仕事論: ヤッターマン、ガンダムを描いた職人』

メカニックデザイナーの仕事論 ヤッターマン、ガンダムを描いた職人 (光文社新書) posted with amazlet at 15.09.26 大河原 邦男 光文社 (2015-08-18) 売り上げランキング: 4,709 Amazon.co.jpで詳細を見る ガンダムをデザインした人として知られているであろう大河原邦男が、アニメ業界にはいるまでのアレコレや、仕事歴、そして仕事論について語った本。もともと大学ではテキスタイルの勉強をしていたとか、アニメの世界に入ったのはたまたまでその前は服飾業界にいた、など全然知らなかったことが知れたのは「へぇ〜」となったが、大した本ではないと思った。自分が関係した仕事についていろいろ書かれているのだが、単なる思い出話・ライトな裏話開陳でしかないし、仕事論にしても「仕事は選ばずにやれ(選ぶと世界が狭くなるぞ!)」とかこの人からしかでてこない、というものでもないだろう。とにかくアニメ黎明期から働いている人であるから、混沌とした状況からスッと身を立てた、というところは伝わるし、アニメ黎明期の混沌とした仕事環境にしても大変そうだな、と思う。でも、それだけの本。

前田愛 『都市空間のなかの文学』

都市空間のなかの文学 (ちくま学芸文庫) posted with amazlet at 15.09.24 前田 愛 筑摩書房 売り上げランキング: 48,440 Amazon.co.jpで詳細を見る 「前田愛」というのはわたしの世代にとって懐かしい名前で「中国」と言ったら「4000年の歴史」とくるぐらい「前田愛」と「木曜の怪談」という言葉が密接に結びついている。しかし、本書はいまや歌舞伎役者の妻となった前田愛ではなく、文芸評論家のほうの前田愛の本(どうでも良すぎる前置き)。いまやレム・コールハースのエッセイが翻訳されるような世の中だが、都市論が日本で盛り上がっていた頃に刊行された、都市を媒介とした文学評論。一番最初に出てくる、数学を用いた、テクストとイメージの関係性、テクストと空間の関係性を論じた文章で「う……難しい本なのか……?」とビビってしまったが、その後に続くのは、バルトやベンヤミンといった(おそらく)当時最新の批評理論を用いた都市文学論、文学都市論だった。あと、終盤の消費社会論的な切り口は、10年ぐらい前に消費社会論が流行った(気がする)ときに読めば良かったかも、と思う。そういうわけで、頭とお尻に微妙、というのが正直な感想。東京近辺に住んでいる人にとっては、江戸の地理と江戸末期の文学から当時の風俗を浮かび上がらせていく部分は興味深く読めるだろう。結局のところ、こういうのってその都市を知らないと、群盲象をなでる状態な気もするんだが。

松尾潔 『松尾潔のメロウな季節』

松尾潔のメロウな季節 (Rhythm & Business) posted with amazlet at 15.09.24 松尾 潔 スペースシャワーネットワーク (2015-06-26) 売り上げランキング: 50,578 Amazon.co.jpで詳細を見る 西寺郷太の『プリンス論』 における語り口の特徴として、プリンスがアメリカの音楽シーンに対してどのようなアクションを取っていたのか、という文脈が丁寧に語られていることがあげられる。そこではプリンスと白人リスナー向けのロック、あるいはプリンスとマイケル・ジャクソンというコントラストをはっきりと感じることができて面白い。 しかしながら参ってしまうのは、90年代に入ってからの話。一般的にはプリンスの迷走期として評価される時期ではあるが、西寺はそこにもプリンスの戦略を見出し、積極的な評価をおこなっている。このときプリンスが誰と対峙していたのか。参ってしまうのは、このあたり。当時のR&Bシーンを賑わせていた売れっ子プロデューサーたちの名前があがっているのだが、当時の音楽については知識ゼロに等しいし、「ニュー・ジャック・スウィング」と言われてもわからない(80年代まではそこそこわかるのに)。LA・リード & ベイビーフェイス、ジミー・ジャム & テリー・ルイス、テディ・ライトというプロデューサーたちの名前にもピンとこない、という感じのありさまだった(西寺は丁寧に説明しているのだけれど)。 たまさか次に読んだ音楽プロデューサー、松尾潔の『松尾潔のメロウな季節』に収められた文章には、90年代にヒットしたR&Bアーティストと、こうしたプロデューサーの関係が筆者のあまやかな回想とともに語られていた。『プリンス論』でわたしがわからなかった部分にアクセスできる良い巡り合わせだ。 本書ではアーティスト自身にもフォーカスは当てられているのだが、それと同等か、それ以上にプロデューサーがなにをしていたのか、どのように音楽が作られたのか、そしてそれがマーケット的にどのような狙いがあったのかが語られる。 これは強烈に音楽シーンの変化を印象付ける文章だ。天才的なアーティストによってシーンがガラリと変わってしまうような時代ではなく、アーティストとプ

Prince / HITnRUN Phase One

Hitnrun Phase One posted with amazlet at 15.09.23 Prince Npg (2015-09-14) 売り上げランキング: 46 Amazon.co.jpで詳細を見る 『プリンス論』 は、ほぼ同時のタイミングで発表されたプリンスの新譜を聴きながら読んでいた。 前作 は冒頭の小室サウンドみたいなシンセと、モダナイズされた音圧に驚かされたが、前作でのモダナイズを本作も踏襲しているのだが「今、このシンセはヤバいだろ……」というイタさがなく、痛快なアルバム仕上がっている。最初、ちょっと地味かと思ったが、聴きこむごとに38分弱のコンパクトさが馴染んできて「む、これはなかなか素晴らしいぞ……」と思った。『プリンス論』で語られていた「エホバの証人からの脱却」説の信憑性が高まるような一枚。

西寺郷太 『プリンス論』

プリンス論 (新潮新書) posted with amazlet at 15.09.23 西寺郷太 新潮社 売り上げランキング: 141 Amazon.co.jpで詳細を見る 稀代のポップ・ミュージック研究家としても知られるノーナ・リーヴスのフロントマン、西寺郷太による『プリンス論』を読了。大変面白かった。出生から現在までのプリンスの長く複雑で謎の多いヒストリーをとてもコンパクトにまとめていて、わたしのような「プリンス大好きで正規のアルバムはほとんど持っているけれど、1980年代にリアルタイムで聴いたわけじゃない」というリスナーにはとてもありがたい。「え!? プリンスも『We are the World』に参加する話があったの?」とか全然知らなかった事実には驚かされたし、そのレコーディング・セッションをドタキャンした理由や2014年の『ART OFFICIAL AGE』に込められたメッセージを著者が推測している部分には唸らされた。 もちろん、プリンス入門本、という機能も本書は果たしている。Youtubeなどのサービスにアップロードされている自身の音源を徹底して削除させているプリンスなので、本を読みながら「どれどれ……」とインターネットを介して試聴することがほぼできないんだけれども、プリンスがどれだけ優れたアーティストだったのかを、ミュージシャンでもある著者がファン代表の公式見解みたいに語っているように思える。先日お会いした某氏が「紺野さんが紹介してくれる音楽のなかで唯一わからないのがプリンスなんですよ」とおっしゃっていたが、そのような方にオススメしたい一冊。

池澤夏樹(訳) 『古事記』

古事記 (池澤夏樹=個人編集 日本文学全集01) posted with amazlet at 15.09.14 河出書房新社 (2014-11-14) 売り上げランキング: 28,253 Amazon.co.jpで詳細を見る 池澤夏樹訳の『古事記』に挟み込まれていた月報に内田樹がこんなことを書いていた。「自国語の古典を現代語訳することの意義が若い頃にはよくわからなかった。古典は古典として、原文のまま読むべきだし、読めないなら読めるように勉強するのがことの筋目だと信じていたからである」と。わたしは内田樹シンパではまったくないけれど、以前まで同じ考えを持っていた。同じ日本語なんだから、そのまま読むべきだろう、そうじゃないと 原文の音 がわからなくなってしまう、それはとてももったいないんじゃないか、と思っていたのだ。 だが、こないだ『万葉集』を読んだときに「『万葉集』の 読み方 は平安時代にはわからなくなっていた」という記述をどこかで目にし、そのようなこだわりが消え失せてしまった。「え?! そうなの、じゃあ、原文の音とかにこだわっててもしょうがなくない? そもそも、現代に伝わる 原文 も校訂者の目を通ったものが一般的な読者の元に届くわけだし、古典のオリジナルに触れる、っていうの幻想じゃん?」とか思ってしまい、まあ、簡単に言えば、どうでも良くなってしまったのだ。内容がわかれば良いんじゃないの、原文が読めるのには越したことはないけど、読むための勉強するのもめんどくせーしな、と。 そういうわけで池澤夏樹訳の『古事記』は、どんなものだろうか、と期待してたのだ。現代語になって読みやすくなり、さらに訳者が作家、って一挙両得じゃん、みたいなね。でも、ややハズレだった。昔、古川日出男が村上春樹をリミックスしたときのような仕事ぶりを勝手に想像していたら、どのへんが池澤夏樹っぽいのかよくわからない異様なマジメさであり、脚注にところどころ、訳者っぽいコメントが入っているのだが、全然遊びがない。 これが2000円(税抜)って高くないか、とちょっと思う。 岩波文庫に入ってる『古事記』 だって、そりゃあ、現代語訳と比べたら読みにくいけれども、読めないわけじゃない。この程度のものなら、池澤訳より岩波文庫のほうをオススメしたい。国文学者の三浦佑之

小林剛 『アリストテレス知性論の系譜: ギリシア・ローマ、イスラーム世界から西欧へ』

アリストテレス知性論の系譜――ギリシア・ローマ、イスラーム世界から西欧へ posted with amazlet at 15.09.10 小林 剛 梓出版社 売り上げランキング: 406,862 Amazon.co.jpで詳細を見る アリストテレスの『霊魂について』でおこなった知性論が、その後、アフロディシアスのアレクサンドロス、テミスティオス、アル=ファーラービー、アヴィセンナ、アヴェロエス、アルベルトゥス・マグヌスによってどのように解釈されていったのかを、彼らがおこなったアリストテレスのテクストへの注釈を辿ることによって整理した本。アリストテレスの時代から、アルベルトゥスの時代までだいたい1600年ぐらいの時間が経過しているのだが、その長いスパンでの知性論の変遷を捉えた本としては、日本語で読める(たぶん)唯一のものなので初学者には大変有意義な本であろう、と思う。 有識者によれば、本書巻末でも「多大な影響を受けた本」として挙げられている、Herbert Alan Davidson, Alfarabi, Avicenna, and Averroes, on Intellect: Their Cosmologies, Theories of the Active Intellect, and Theories of Human Intellect をアンチョコにしているのに「さも自分が考えました」という風に議論を進めているのは問題だ……ということだが、わたしは学者ではないのでひとまずそのへんは置いておく。 ここで「知性論」と言われているのは、人間はどうやってモノを認識したり、モノを考えたりしているんでしょうね、その働きはどういうものなんでしょうか、という議論である。それは西洋の哲学的伝統において、霊魂の働きのひとつであると考えられてきた(当然、現代の我々はそういう考え方をしない。知性を脳に還元している。知性の働きを語る際にいつから霊魂という枠組みが必要とされなくなったのか、という別な関心もあるんだが、それについてはTwitter上で こういう教え を授かった)。というか、アリストテレスの哲学の枠組みのなかでそう考えられてきた。 アリストテレスが完璧に「知性とはこういうモノです(試験にでるから覚えておくように!)

岸政彦 『街の人生』

街の人生 posted with amazlet at 15.09.10 岸 政彦 勁草書房 売り上げランキング: 148,017 Amazon.co.jpで詳細を見る 先日読み終えた 『断片的なものの社会学』 があまりに良い本だったから、気が付いたら 著者のブログ の過去ログを全部読み終えてしまっていて、ネット上で読めるインタヴュー記事もあらかた読んでしまった。ここ数日で「岸政彦ファン」化している。それで「この人の本がもっと読みたい!」という気持ちが抑えられなくなって『街の人生』を買って読んだ。こういう風に「読みたい!」と素直な気持ちがやってくるのも久しぶりな感じがする。 『街の人生』は、著者(とその教え子)がおこなったインタヴューの記録だ。『断片なものの社会学』でも、さまざまな語りが登場するけれど、もっと生の記録である。伝わらない喩えをもちいるならば、マイルス・デイヴィスの『The Complete On The Corner Sessions』みたいな感じ(もちろん、書籍化にあたっての編集はおこなわれているけれど)。外国人のゲイ、ニューハーフ、摂食障害、シングルマザーの風俗嬢、高齢のホームレスの人たちによる解釈も意味づけもない語りが収録されている。 このインタヴュイーのラインナップに人は「特殊な人生」を想像するだろう。もちろん(わたしも含めての)マジョリティが「自分は『普通の人間』です」という顔をして生活している人生と比べれば、そういう「波乱万丈な」という感想がでてきてもおかしくない。けれども、当事者にとっては、それが「普通の人生」でしかない。自分の人生しか生きられない以上、そういうものである。だからこそ、読み手であるわたしは、わたしには生きられない別の人生を、驚異として目の当たりにしてしまう。特殊な人生ではなく、別な人生としての驚異が本書にはある。 いや、本当に面白くて、今回も泣き笑いをしてしまった。とくにニューハーフのりかさんのパートは、ニューハーフパブで働いているという職業柄か、滑らかな語りが読んでいてすごく気持ち良い。すごく話に引き込まれて何度も「えー、そんなんあるんですか。全然わかんない!(から、もっともっと話が聞きたい)」という気持ちになってしまう。ただ単に他人の面白がっているだけ、と言えば、

岸政彦 『断片的なものの社会学』

断片的なものの社会学 posted with amazlet at 15.09.08 岸 政彦 朝日出版社 売り上げランキング: 2,875 Amazon.co.jpで詳細を見る ずいぶん社会学の本から離れていた。若者代表みたいな顔をしたいけ好かない社会学者や、先の震災によって発狂した社会学者、セクハラで学校をやめてカルトの教祖になった社会学者などの醜態を見るにつけ「社会学」にちょっと違和感を感じていたこともある。社会学は、ちょっと恥ずかしい学問になりつつある。そんななか、友人が「読んでいて泣いてしまった」とTwitterで書いていたのを目にして興味を持ったのが『断片的なものの社会学』だった。著者は、沖縄や被差別部落、生活史を専門とする社会学者で、本書には発表や論文というアウトプットから漏れてしまった「語り」や「出来事」にまつわるエッセイが収められている。 著者のブログには、こんな記事がある。 板東英二 本書に書かれている大半の話が、これに近い「なんとも言えない話」であり「なんでもない話」だ。良い話でも、悲しい話でもない。どこかおかしい気がするし、実際に笑ってしまうものもある。そして、なぜかとても強く印象に残る。無理やり解釈しようと思えばできなくもなさそうだし、そうした話をストーリーとして提示することも可能だろう。しかし、著者はそういうことはしない。「なんとも言えない」「なんでもない」話の集積によって、実に巧みに、社会で生きること、自分のこと、差別のこと、さまざまな事象を語っている。難しい理論なんてなにもない。社会学者の名前もほとんどでてこない。 毎日生きづらさを抱えて暮らしていた学生時代に、ゼミの先生が書いた本を読んで、少し救われた気持ちになったことを思い出した。それはコミュニケーションや振る舞いに関する本で、そこで用いられている理論的な説明が、自分の生きづらさを説明してくれるような気がしたからだ。事象を理論を通して解釈することで落ち着く。そういうことをして学生時代を乗り越えてきた、ような気もする。そういうのがわたしにとっての「社会学」だった。 『断片的なものの社会学』は、その事象 - 理論 - 解釈のアプローチとは正反対で、ひょっとすると、学生時代のわたしには理解ができない本だったかもしれない。でも

アンソニー・グラフトン 『テクストの擁護者たち: 近代ヨーロッパにおける人文学の誕生』

テクストの擁護者たち: 近代ヨーロッパにおける人文学の誕生 (bibliotheca hermetica 叢書) posted with amazlet at 15.09.07 アンソニー グラフトン 勁草書房 売り上げランキング: 122,985 Amazon.co.jpで詳細を見る 翻訳作業のお手伝いをしたアンソニー・グラフトンの『テクストの擁護者たち』を読み終える。本書の内容については、すでに 原書を紹介したときにもあらかた書いてしまった が、改めてどんな本なのか紹介しておこう。 本書はルネサンスから近代という長い時間軸のなかで当時の知識人たちがどんな風にテクストを読んだり、肯定したりしたのか、という知の営みの歴史を扱っている。そこで登場するのは、たとえば、デカルトだとかスピノザだとか、西洋思想史界のスーパー・スター的な人物たちではない(第7章で扱われているケプラーが例外か)。「歴史」のなかでほとんど無視されてきたような、知識人たちである。そうした忘れられた知識人たちによって、文献学やテクスト校訂の技術が培われ、現代にまで引き継がれる礎を作られたのだ……というのが、本書のおおまかなストーリーになるだろう。 特筆すべきなのは、グラフトンの歴史記述の方法だ。これは本書巻末に寄せられた監訳者による文章でも触れられているけれど、グラフトンはこの仕事を「非合理から合理性へとむかう単線的な発展」としては描いていないし、また忘れられた知識人のなかから「本当は、この人が重要なんだ!」と(無理やりたとえるならば、昭和プロ野球史から榎本喜八 = 最強バッター説を唱えるようなやり方で)新たなスーパー・スターを発掘するような仕事でもない。そういうわかりやすい記述ではないのだ。 第1章からそう。ここでは冒頭からルネサンス期のイタリアでおこった論争が紹介されている。「古代のテクストは、今を生きる人がキケロのように優れた弁論家になるための模範として読まれるべきだ!(だから、古代のテクストが書かれた歴史的状況はあんまり重要じゃない)」という学者たちのグループと「いや、そのテクストが書かれた背景を理解しないと、そのテクストを本当に読んだことにならないのでは!?」という学者たちのグループの争いだ。 単線的な発展として歴史を描こうとすると

戸部良一(他) 『失敗の本質: 日本軍の組織的研究』

失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫) posted with amazlet at 15.09.06 戸部 良一 寺本 義也 鎌田 伸一 杉之尾 孝生 村井 友秀 野中 郁次郎 中央公論社 売り上げランキング: 152 Amazon.co.jpで詳細を見る 組織論の先生たちが大東亜戦争の研究だが、企業人にもよく読まれている本である。会社勤めをしていると自然とこの書名を耳にするんだが、わたしは結構ナメていて「戦争の失敗から企業マネジメントを学ぶ、ってどうせ『もしドラ』的なあれでしょう……?」とか思っていたんです。が、読んでみたら、うーむ、大名著、と唸ってしまったね。大変に面白かった。なにが面白かったか、というと、組織論の先生たちが分析をおこなっているんだから当たり前なのかもしれないが、ここで日本軍のダメなポイントとしてあげられているのが、会社員あるあるだったことだ。 たとえば、ノモンハン事件、ソ連の機械化兵団に関東軍がバカ負けするという武力衝突。ここでは現場にいる関東軍が「ソ連軍なんか気合いでなんとかできる。絶対勝つ!」と無謀に突っ込んでいて、無駄な消耗を繰り返したんだけれども、このとき遠く離れた中央部ではちゃんと「いや、あんたら負けるから、無駄な戦いは止めろって」と何度も忠告してるのだった。でも、関東軍は「いや、勝ちます。勝てますから、大丈夫です」と言って、その忠告を聞かない。 その強硬な姿勢に、中央部も「う、うん? 一応、止めたほうが良いよ、って言ったからね、俺(最後は現場で判断してね)」とぼんやりした指示を出してしまう。読んでて、あるある〜、と思ったね。わたしが中央部の担当者だったら、2度ぐらい忠告しても相手が考えを変えなかったら(めんどくせっ)と思って、同じようなぼんやりした指示を出してしまうと思う。そして関東軍が負けたら(だから、言ったじゃん)とボソボソ言う。全力で止めにかかるのが、ひいては自分のためでもあるはずなのに、目の前の(めんどくせっ)という感覚によって、間違った選択をしてしまうのって恐ろしいことだ。けれども、それを自然にやってる自分の姿にも読書のなかで気づく。 読んでてそんなのばっかりなのだが、他にもいろいろと面白くて、この本は「日本はもうダメかも、いやダメだ」みたいな局面になる度に

EZTV / Calling Out

コーリング・アウト[ボーナス・トラック収録・解説付き / 国内盤] posted with amazlet at 15.09.03 EZTV Tugboat Records Inc. (2015-07-15) 売り上げランキング: 117,269 Amazon.co.jpで詳細を見る Apple Musicへのリンクはこちら。 そう、Apple Musicの導入後、新譜を聴く量は以前の3倍近くになっているのだが、あまりに聴きまくっているため、ブログに記録する気がおろそかになっていたのだった。このEZTVはいつものように tdさんのブログ で知ったニューヨークの3人組バンド。昨年聴いた Real Estate がまず思い出される、マジカルなギターが全編にわたって展開されるギター・ポップであり、最高であった。この手のバンドにありがちなヴォーカルのヘロッとした弱さがあるんだが、このギターには抗えないし、ドリーミィって言うんですかい、ハッキリとしない音像で迫ってくるんだが、ベースとドラムのリズム隊は異様にタイトに聴こえ、しまる所がしまっている感じが素晴らしい……。来日したら現代日本最強のギタポ・バンドである、Homecomingsと対バンしてくれねぇかなぁ……と思っている。