伊丹十三 『日本世間噺体系』

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日本世間噺大系 (新潮文庫)
伊丹 十三
新潮社
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伊丹十三のエッセイを読むのはこれが3冊目。今年にはいって、わが家では静かな伊丹十三ブームが続いているのだが、今回、筆者のプロフィールを読みながら、昨年は生誕80周年だったのだなあ、と思い、そして、生年の昭和8年という数字を確認して、そうか、この人は自分の死んだ祖父とほとんど同じ世代の人なんだな、と改めてたまげてしまった。書くモノの洒脱さと、亡くなったときのニュースを覚えているせいで、なんだかずっと若いままの人(自分の父親ぐらいの年代の)という風に錯覚してしまっていた。

この『日本世間噺体系』には『ヨーロッパ退屈日記』『女たちよ!』に比べると、ずっと毒が強い文章が収録されていると思った。エッセイよりも、風刺だったり、寓話のようなものが多く、後半はずっと現実に取材したものかどうかもわからない、インタビュー記事のようなものが続いている。カッコ良い伊丹十三の文章を読み続けていたかったのに、肩すかしを食らった気分だった。が、「プレーン・オムレツ」という筆者と洋食屋の主人の対話篇的一篇は、特別に気に入った。

タイトル通り、洋食屋の主人がプレーン・オムレツの作り方などについて滔々と語っていて、筆者はそれに適当な相づちを打ったりするだけの文章なのだけれども、主人がプレーン・オムレツを作る様子を追った文章が、とんでもなく素晴らしい。間違いなく、歴史上最もリアリスティックにプレーン・オムレツができるまでを描いた文章であろう。情景が目に浮かぶようだ……という常套句を思わず使いたくなるし、もし、新聞記者やスポーツ・ライターを目指している人が「写実的描写」について悩んでいたなら、このような文章をお手本とすべきと思う。フライパンのなかで躍る卵の運動に愕然とした。

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