末崎真澄(編) 『図説 馬の博物誌』

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図説 馬の博物誌 (ふくろうの本)

河出書房新社
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河出の図説シリーズは良い本があるな〜。『図説 馬の博物誌』は、人類と馬とのおよそ5000年間の関係を美麗な図像とともにたどる良本でした。羊、牛、豚といった他のメジャーな家畜よりもずっと遅れて家畜化された馬ですが、人類史への影響の大きさは他のどの家畜よりも大きいことがよくわかります。交易はもとより、軍事面で馬をどのように扱ったかがある文明・文化の繁栄の鍵になっていたところが特に刺激的に読めます。ヨーロッパや中国の歴史が、外部から侵入してくる騎馬民族によってダイナミックな変動を強いられるところがとても面白い。

中国では漢の武帝が匈奴対策のために汗血馬を求めて西域へと大遠征軍を派遣し、3000頭以上の名馬を連れ帰ったという一大プロジェクトを成功させたエピソードなど、河西回廊に吹きすさぶ砂嵐のなかを名馬を連れた大群が帰還してくるヴィジョンを刺激してくれるし、中世ヨーロッパにおける重装騎兵が十字軍に参画した際、サラセンやトルコの組織化された軽騎兵たちの戦術にまったく歯が立たなかったことなど、当時のイスラーム勢力の強さの理由を解説してくれるようです。馬の戦略的・戦術的重要性は20世紀に入って火器や戦車、自動車が戦場で活躍するようになってからようやく薄くなっていく。しかし、それ以前のヨーロッパの歴史などは、まるで外部の騎馬民族に対する傾向と対策を練り上げることによって作られていった、とも読めます。騎馬民族へのコンプレックスが歴史を駆動した、というか。

イギリスにおいてサラブレットの生産が始まったのも、大陸の騎馬文化への憧れによるものだ、とする競馬文化についての文章(山野浩一による)も素晴らしかったです。大陸の国々は外部の騎馬民族の脅威から、国家主導で騎馬文化を育てなくてはならなかったのに対して、イギリスではそうした必要がなかった。そうした特別な環境にいたからこそ、貴族たちは、自分たちの純粋な遊びのつもりで、強い馬ではなく速い馬の生産を求めたのでした。特殊なところから生まれたサラブレット競馬が後々世界中に広がっていくプロセスにも、歴史のダイナミズムを感じました。

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