イェイツの『ジョルダーノ・ブルーノとヘルメス主義の伝統』を読む(原書で) #10

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Giordano Bruno and the Hermetic Tradition (Routledge Classics)
Frances Yates
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今回は第7章「コルネリウス・アグリッパのルネサンス魔術の概観(Cornelius Agrippa's Survey of Renaissance Magic)」を見ていきましょう。「ネッテスハイムのアグリッパ」として知られるこの魔術師の業績は、その名もズバリ『オカルト哲学』というタイトルの著作が最も知られているところでしょう(これ、邦訳が出てるんですけど、高価でねえ……でも邦訳が出てるっていう事実がすごい)。しかし、イェイツはアグリッパについてこんな風に評価しています。「彼はルネサンスの最も重要な魔術師でもなければ、『オカルト哲学』も真の魔術書でもない」と。しかし、この『オカルト哲学』は出版当時(1533年)においてはルネサンス魔術の概観となる初めての著作でした。この章では『オカルト哲学』からジョルダーノ・ブルーノを理解するために役だつポイントがまとめられています。





アグリッパの世界観とは前の章で述べられた「3つの世界」のモデルです。世界は、地上、天(celestial)、天上(supercelestialの訳語ってなんでしょうか? 天より高いところですから、さしあたって天上、としておきましょう)に分かれていて、高次の世界が低次の世界を支配している。これに対してアグリッパは、地上には薬と自然魔術が、天には占星術と数学が、天上には聖なる儀式的魔術の効果を設定します。全3巻にわたる『オカルト哲学』は、各巻がこのそれぞれを取り扱っており、1巻は自然魔術、2巻が占星魔術、3巻は儀式的魔術、という構成となっているそうです。





それでは第1巻のお話。アグリッパはここでフィチーノの『天によって与えられる生について(De vita coelitus comparanda)』を引用しています。悪いことが起きる原因は、星々とそれらの図像によるものだ。すべてのものが天の図像と通じてるのだ、というこの理屈については、フィチーノの自然魔術について取り扱った章をご覧ください。アグリッパもフィチーノから多大な影響を受けている、ということですね。しかし、アグリッパは単純にフィチーノを継承したわけではありません。彼はフィチーノよりも大胆に、星々の力だけではなく、それを超えた知性の力を操ろうとしていたそうです。





第2巻では魔術で最も必要なものは数学である、と説かれます。自然のすべてのものは数と重さと長さによって統治されている、ピラミッドなど古代の大きな建造物もみな、数学的魔術の産物なのだ。自然物によって自然因を理解するように、数学と天体によって我々は天体因を理解することができる。そうすれば、未来を予言する図像も作れるようになるのだ。こんな風にアグリッパは言います。ここでは数によって自然が統治されるのですから、数学的魔術は自然魔術よりも優れたものと考えられました。またヘブライ文字はそれぞれに数としての価値をもっているので最も数学的魔術の可能性が高いとされます(カバラの影響もここに現れるのですね)。





数学的にいろいろ魔術をすることで天体の図像をどうこうし、調和した霊魂のなかに宇宙の調和をもたらそう、というのがアグリッパの数学的魔術の目標となっているようです。彼は天体の図像をたくさん紹介しているのですが、これもまたフィチーノよりずっと大胆で、悪魔の図像を持ち出すのにも躊躇がありません。こうしたアグリッパの態度をイェイツはこんな風に評価します。「フィチーノがほんの少し開けたままにしていた開かずの扉は、今や完全に開け放たれたのだ(超訳。The door into the forbidden which Ficino had left only slightly ajar is now fully opened)」。





いよいよ、第3巻にはいります。ここでアグリッパはまず我々の精神を形作る方法、そして真理を知る方法についての説明に入ります。これには敬虔さが必要である。彼はヘルメス・トリスメギストスに従って、生の純粋さ、敬虔さ、神への信仰がなければ確固たる精神は形成できない、とします。またこの神秘は秘密にしておかなくてはなりません。ここでもアグリッパはヘルメスを引いています。ヘルメス曰く、神の偉大さについて大衆に知らしめることは、宗教に対する犯罪行為である。これらの掟を守ることで、霊魂のうち最も優れたものである知性を通して、奇跡的なものごとが実行される、とアグリッパは言います。





イェイツは、アグリッパをフィチーノとピコを繋げる人物だ、とみなしているようです。前述の通り、彼はフィチーノの自然魔術を継承しながらも、その先をゆき、そしてヘルメス的、カバラ的の秘術を暗示させる。そして、アグリッパは宗教的な奇跡をも魔術によって実現しようとした点でピコをも乗り越えようとする。





ここまでで、アグリッパの異端性について充分に確認できたかと思います。アグリッパが前章までで紹介されたフィチーノやピコといった人物と違うのは、やはりその大胆さでしょう。アウグスティヌスは魔術をキッパリと禁止していたのに、アグリッパはそれをものともしない。こんな人物がでてきたのに当時の人々は「アグリッパは異端だ! 魔術はやっぱりマズいから、全部片付けちゃおうぜ! 図像なんか全部壊しちゃおうぜ!」と言わなかったのでしょうか。しかし、そんな人は出なかった。ここにはアグリッパの「良い魔術は人をより高い信仰へと導く、悪い魔術はその粗悪なコピーでしかない」という区分の巧妙さが効いていたそうです。ジョルダーノ・ブルーノもまたアグリッパから影響を受けたもののひとりでした。





といったところで今回はおしまいです。おつかれさまでした。





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