ライナルド・ペルジーニ『哲学的建築 理想都市と記憶劇場』

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哲学的建築―理想都市と記憶劇場
ライナルド ペルジーニ
ありな書房
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 著者、ライナルド・ペルジーニは1950年ローマ生まれの建築史・思想史家。図像解釈学的な建築研究を試みており、建築の構造から時代の精神を分析しようと言う研究をおこなっているそうである。本書『哲学的建築』でのペルジーニの試みは、建築という概念が認識の概念と分離不可能な時代において建築家は、哲学者でもあった、という観点から「哲学者-建築家」の系譜を描こうとするものだ。その「哲学者-建築家」の原始には、ヘルメス・トリスメギストスがいる。彼が築いたとされる理想都市はアドセンティンは、プラトンの『国家』における理想国家とも統合され、さまざまな変奏を生み出していった……というのがプロローグとなっている。そののちに取り上げられる「哲学者-建築家」は以下の通り。



理想都市国家:トンマーゾ・カンパネッラ


薔薇十字運動:ヨーハン・ヴァレンティン・アンドレーエ


記憶術的建築:ジョルダーノ・ブルーノ


記憶劇場の理念:ジュリオ・カミッロ・デルミーニオ


霊的機構と神殿概念:ロバート・フラッド


驚異としての古代都市:アタナシウス・キルヒャー



 当初のなかで紹介されている順番に並べたが、これらは歴史上に登場した順番になっているわけではない。生年順に並べ替えると……



カミッロ(1480年ごろ)


ブルーノ(1548年)


カンパネッラ(1568年)


フラッド(1574年)


アンドレーエ(1588年)


キルヒャー(1601年)



 という風になる。





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 本書のなかで目を引いたのは、カミッロの「記憶劇場」についての記述である(左:カミッロの『記憶劇場』についての有名な図版)。フランセス・イェイツが言うところによれば、これは「古代記憶術」の結晶的な建造物だった。通常の劇場であれば、観客が座って舞台を眺めるであろうところには、同心円上に秩序体系化された知識が配置され「宇宙」を形成する。利用者は、舞台上にたち、それを照応することによって、さまざまな知識を思い浮かべることができる。この構想に触れると「記憶劇場」がまるで未来からきた夢の道具のようなもののように思われ驚いてしまうが、16世紀にカミッロがこの構想を発表した当時のインパクトは今以上だった。これは言わば(実現されなかった)16世紀理想建築・理想都市計画のマスターピースだったのだ。その後の「哲学者-建築家」は、皆カミッロの影響下にあった、と言う風に本書では言われている。





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 しかし、建築の構造のなかに、世界の構造や知識体系を埋め込む、というアイデアのスゴさには圧倒される。本書でカミッロ以降に紹介されている「哲学者-建築家」のページに載せられた図版は、興味深いものが多く、それだけで愉しくなってくる。左はロバート・フラッドによる「音楽神殿」という作品。フラッドという人も、ルネサンス的というか、医学・錬金術・博物誌など多彩な仕事をした人らしいのだが、この「音楽神殿」構想も『両宇宙誌』(つまりミクロコスモスとマクロコスモスのふたつの宇宙について記した本)に載せられている。柱など、建物の作りからピュタゴラス的な調和(ハーモニー)に従って構成され、いたるところに音楽記号などが装飾として描かれている。この建物のすべてを詳細に分析することによって、誰もが「学問において知得したことによって優れた教師」になれる!! とフラッドは力説していた。





 いやはや……なんとも……と頭が下がる気がするが、著者ペルジーニはこういった「哲学的建築」を喚起することが、現代において極めて重要なのだ!! としている。彼にとって現代の建築というジャンルは「〈高度に知識化されたテクノクラート〉という特殊な階級に限定された占有物として奉仕」しているように見える。昔はもっと感性に訴える「知的な衝撃力と心理的なコミュニケーションの直截性」が建築のなかに溶け込んでいたのだ!! と。「おっ、てめぇさしずめインテリだな!」と言いたくなるような考えだが、たしかに、これらの建築の知的な衝撃力はすさまじい。





f:id:Geheimagent:20090212054733j:image:left 個人的にもっともツボだったのはキルヒャーが考えた「もしもバベルの塔が完成したら」の図(左)。キルヒャーと言う人は、「遅れてきたルネサンス人」などとも評される17世紀の修道士。彼は、この時期のヨーロッパにおける最も権威ある知識人とされていたのだが、晩年はバベルの塔やノアの方舟といった神話的な「驚異の建築」をマジメに分析し続けていたそうである。このバベルの塔の図もその成果のひとつだった。図の奥には、横向きにバベルの塔と地球の図が書かれているが、これは「バベルの塔は地球よりも重いから、完成したらその重みで90度傾いて倒れちゃうよ」の図である。これによって、地球は宇宙の中心から外れ、そもそもバベルの塔が作り出す影によって気候にも影響がでただろう……とキルヒャーは言った。すごい説得力だ!!!





 ……とアホウのように大喜びして終わるのではなく、彼がおこなった古代の建築や都市についてのこうした分析に、16~17世紀の人文的な知が含まれていることにも留意したい。古代エジプトの都市構造のなかに、彼は新プラトン学派的な、ヘルメス主義的な知を見出し、ルネサンス期の「哲学的建築」と接続することで、それらを再統合したのだった。キルヒャーのこの仕事は感動的な仕事だと思う。





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