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11月, 2009の投稿を表示しています

『マイケル・ジャクソン THIS IS IT』

Michael Jackson's This Is It - The Music That Inspired the Movie posted with amazlet at 09.11.27 Michael Jackson Epic (2009-10-28) 売り上げランキング: 22 Amazon.co.jp で詳細を見る  最終日のせいか郊外のシネコンでもほぼ満席……という状況でマイケル・ジャクソンの映画を観ました。面白いとか面白くないとかではなく実に感慨深い映画だったと思います。終演後には拍手が起こっていて(自分はしませんでいたが)、会場をあとにするほかのお客さんの声も熱くて、改めてキング・オブ・ポップの訴求力みたいなものを感じてしまいました。もう死んだけど。そう、もうMJは死んでるんだよ! ということで後味があまりよくありませんでした。スクリーン上で奇怪なほどシャープな動きをする白い50歳とは思えない動きをしていて、声も結構出ている。観る前は痛々しい姿を予想していたのですが、圧倒的な現役バリバリ感を示している。だからこそ、マイケル・ジャクソンの“急死”の重みが一層感じられてしまいます。私は死んだから/死んでから、再評価をおこなう、といった行為を好みません。この映画に贈られた拍手は生前の彼に贈られるべきものであった、と思いますし、さらに言ってしまえば彼が非常に苦しい時期にあった頃に贈られるべきものであった、と思います。少々ナイーヴ過ぎるしれませんが、私はこの映画に対して、素直に拍手をすることはできませんでした。そんなに思い入れがあったわけでもないですし(好きだったけれど)。  いきなりブツクサと続けてしまいました。繰り返しますが、スクリーンに映る「圧倒的な現役バリバリ感」のマイケル・ジャクソンはすごかったです。まず、彼の周囲に配置された若いダンサーとはまるで異質な動きをしているのがすごい。マイケル・ジャクソンと若いダンサーたちの動きがシンクロしていても、中心にいる白い50歳の動きはあきらかに違っている。まるでその白い人の周りだけ地球の重力が5分の1ぐらいになっているんじゃないか、っていう軽い動きをしています。別な言い方をすれば、筋力を感じさせない動き、とでも言えましょうか。たしかに、若いダンサーたちは男女問わず、すごく厚くて、重そうな鍛え上げられた

アルノルト・シェーンベルク 《ピアノ協奏曲》

 内田光子が演奏しているシェーンベルクの《ピアノ協奏曲》が、下記エントリで紹介している映像の関連動画としてあがっていたのでこちらも併せて紹介しておきます。前にも紹介したことがある *1 下記のインタヴューのときの本番みたいです。いつごろの演奏なのかは依然として不明。でも、本番の映像を見てみると内田光子が結構若い。そしてインタヴューのときよりキレイに見える(顔はかなり崩壊してるケド……)。  作曲されたのは1942年。シェーンベルクは1951年に亡くなっているので晩年の作品と言って良いでしょう。この作品の5年ほど前に書かれている《ヴァイオリン協奏曲》と同様に、物語的に進行する緩-急の流れがあり、(シェーンベルクの作品のなかでは)かなり馴染みやすい部類のものではないでしょうか。古典的な音楽作品にあるようなダイナミズムを強く感じます。テンポが速い部分は歌舞伎的にカッコ良いですし、アダージョの危うい美しさにもゾクゾクしてしまいます。これもまた20世紀の音なのだなぁ……ロマンティック……。 シェーンベルク:ピアノ協奏曲 posted with amazlet at 09.11.27 内田光子 ユニバーサル ミュージック クラシック (2009-08-05) 売り上げランキング: 33836 Amazon.co.jp で詳細を見る *1 : 内田光子、シェーンベルクを語る - 「石版!」

イーゴリ・ストラヴィンスキー 《詩篇交響曲》

*1 *2  久しぶりに《春の祭典》を聴きだしたら、自分がおどろくほどこの曲の細部について記憶していることに驚き、それから面白くなってきてストラヴィンスキーの作品をいろいろ聴きかえしました。ついでにYoutubeで映像を探してみたら《詩篇交響曲》の映像がアップロードされておりましたので紹介しておきます。1930年に作曲された新古典主義時代の作品。宗教音楽をハイセンスな書法をもってパロディ化したような曲ですが、厳粛さと遊びの要素の不調和がとても面白いです。とくに第二楽章の奇怪なフーガの響きといったら、ウソ臭さが全開で最高。これもひとつの《異化作用》とでも言えるのでしょうが、この危うい美しさのなかに「ザ・20世紀」といった感慨を感じなくもありません。 ストラヴィンスキー:詩篇交響曲/ブーランジェ:詩篇集 posted with amazlet at 09.11.27 Brilliant Classics (2009-03-16) 売り上げランキング: 610692 Amazon.co.jp で詳細を見る *1 :第一楽章・第二楽章 *2 :第三楽章

Mahavishnu Orchestra/Visions of the Emerald Beyond

Visions of the Emerald Beyond posted with amazlet at 09.11.25 Mahavishnu Orchestra Sony (2008-02-01) 売り上げランキング: 4842 Amazon.co.jp で詳細を見る  Dirk_Digglerさんにいただいたジャズ/フュージョンの音源を淡々と紹介していくよシリーズ。本日はマハヴィシュヌ・オーケストラ、1975年の大名盤『Visions of the Emerald Beyond』。これはもうすごかった。ジョン・マクラフリンってこんなに上手かったのー……と尻の毛まで抜かれそうな気持ちになったし、これまで結構、イギリスのテクニカルなジャズ・ロックを聴いてきたつもりではあったけれど、もうそんなの比べ物にならなくて、本業ジャズの人が本気を出すととんでもないプレイヤビリティを発揮するのだなぁ……と思いました(マクラフリンはイギリス出身のミュージシャンではございますが)。ギターと対峙するジャン=リュック・ポンティのヴァイオリンも異様に熱くて、とにかく音がぎっしりと詰まった変拍子ジャズ曼荼羅。  いまではイナたい感じがするオリエンタリズムと異教感が満載なんですが、それもジョン・コルトレーンから続くジャズ界の伝統なのか……と思えばまた良し。これと同時期にコルトレーンの死によって天啓を受けた男、クリスチャン・ヴァンデによるマグマがフランスに存在していたことを考えると非常に興味深いものがあります。マハヴィシュヌ・オーケストラのサウンドと、マグマのサウンドには驚くほどよく似た部分がある。どちらのバンドもリーダーは、物心ついた時には既にバップの全盛期、青年に達する頃にはロックが生まれており、一流ミュージシャンの仲間入りする時期にはほとんどジャズは下火になっていた……という境遇を持つ、ジャズが生まれた国ではない土地に生まれたジャズ・ミュージシャンなのですから、彼らが似たように「異教」を志向したのは当然のことだったかもしれません……とインチキな分析を試みたくもなります。

クエンティン・タランティーノ監督作品『イングロリアス・バスターズ』

イングロリアス・バスターズ オリジナル・サウンドトラック posted with amazlet at 09.11.24 サントラ デヴィッド・ボウイ ビリー・プレストン ツァラー・レアンダー サマンサ・シェルトン リリアン・ハーヴェイ ウィリー・フリッチュ ワーナーミュージック・ジャパン (2009-11-11) 売り上げランキング: 1664 Amazon.co.jp で詳細を見る  タランティーノの新作を観てきました。楽しみにしていたんですが、期待と予想をはるかに上回る傑作ではないでしょうか。以前、蓮實重彦が「『デス・プルーフ』を見たときは、立ち上がって拍手をしたくなった」と語っていましたが『イングロリアス・バスターズ』もそんな感じ。息を飲む緊張感と崩れ落ちたくなる爆笑に襲われ、大満足で劇場を後にしました。最高! 爽快! 観た後に風邪が治りました!(マジで)  ラブレーを直前に読み終えていたこともあって、ぼやーっとミハイル・バフチンの「カーニバル文学論」のことを思い起こしていたのですが、映画の最後に仏壇返し的にやってくる、全部ブチ壊しての大団円は、まさにカーニバルそのもの、というか。様々な伏線を緻密に交差させながら「えっ、これどうなっちゃうの? 大丈夫なの?」と観客にスリルを与えつつ、その意図は、最終的なカーニバルの舞台の用意でしかない、という思い切りの良さに大拍手したくなります。劇中、プロパガンダ映画を観ながらナチの人たちが大騒ぎする、っていうシーンがあるのですが、私もそんな感じで大騒ぎしたかった。ウオーッ! とかバカみたいに叫んだりしてね。  あと暴力描写も良くて。それも、スプラッター的な大盤振る舞いじゃなく、鈍くて「それは痛い……痛い……」と目を背けたくなるような痛みの描写のさじ加減が。バットで撲殺されるシーンなんかの鈍さなんか特に良かったです。バットを大きく振りかぶって、スイングすると、耳の辺りに直撃。「首ぐらい吹っ飛んじゃうのかな」と思いきや、そうじゃなく、重い衝撃音がして、打たれた人が倒れるだけ。ここでハッとするのですね。鈍い暴力のリアリティを感じてしまう。大盤振る舞いのなかに、そういったシーンが何点か含まれることによって、なんか映画全体の暴力が引き締まって感じたかもしれません。

フランソワ・ラブレー『ガルガンチュアとパンタグリュエル 第四の書』

ガルガンチュアとパンタグリュエル〈4〉第四の書 (ちくま文庫) posted with amazlet at 09.11.23 フランソワ ラブレー 筑摩書房 売り上げランキング: 10863 Amazon.co.jp で詳細を見る  昨年から待ち望んでいた『ガルガンチュアとパンタグリュエル』新訳の第四巻を読みました。この『第四の書』が書かれる前に、パンタグリュエルの部下であるパニュルジュという登場人物を主人公としたスピンオフ作品『パニュルジュ航海記』がラブレーとは別人の手によって刊行されていたそうです。今で言う二次創作みたいなものが、四五〇年以上前のフランスには既に存在していたことを考えれば、なんだか「二次創作はポスト・モダンの云々」といった分析が脆くも瓦解してしまいそうですが、ラブレーが“ポスト・モダン先取り感”を強めているのは、別人の手によって書かれた二次創作のストーリーをパクッてこの『第四の書』のなかに取り入れてしまっているところでしょう。このような話はセルバンテスにもありましたから、特段珍しくもないのかもしれません。『ガルガンチュアとパンタグリュエル』自体、当時のフランスに流通していた伝承譚『ガルガンチュア大年代記』を元に書かれたものですから、そもそも二次創作っぽいところがある。  前巻である『第三の書』では、パニュルジュは結婚するべきか/しないべきか、をめぐっての大論争がメインとなっていましたが、『第四の書』はその問題の結論をつけるために「聖なる酒びん」のご託宣を授かるための船旅に出ましょう! という始まり方をします。しかし、一筋縄にいかないのがラブレーなわけで。フタをあけてみると「聖なる酒びん」のことなど忘却のかなた。様々な島を巡っては、妙ちくりんなキャラクターや怪物がでてきて大騒ぎ……。風刺と下ネタのオンパレード。結局、最後まで「聖なる酒びん」にたどり着くことはありません。ラブレーと言えば教科書に載るぐらい古典視されている人物ですが、その実体は、解読不能な言葉遊びも頻発し、ジョイスとピンチョンが束になっても適わないような恐ろしい小説を書き残したトンデモないオッサンなのでした。ピンチョンや莫言を読むなら、まず読むべきはラブレーではないのか、と私は思います。ポスト・モダン小説で注目される手法のほとんどが『ガルガンチュアとパンタグリュエル』には含まれてい

Grover Washington, Jr./Winelight

Winelight posted with amazlet at 09.11.19 Jr. Grover Washington Wrong (1990-10-25) 売り上げランキング: 4224 Amazon.co.jp で詳細を見る  Dirk_Digglerさんにいただいたジャズ/フュージョンの音源を淡々と紹介していくよシリーズ。本日はグローヴァー・ワシントン・ジュニアの『Winelight』(1980年)。ジャケの感じが今見ると池袋とか新宿駅構内でワゴン・セールされてるCDみたいですが、このアルバムに収録された「Just the Two of Us」はグラミー賞を取ったらしいです。超スムース ≒ 深夜のFMっぽい ≒ っていうか、ジェットストリームっぽい(高度一万メートルの風……)。とはいえ、マーカス・ミラーとスティーヴ・ガッドというテクニシャンの人がガチガチに演奏を固めてるので、簡単にスムース・ジャズ(笑)と言い捨てられないのでした。  これを聞きながら夜景の見えるバーとか行ってみたい……なんとなくクリスタル……。すべての言葉がカギ括弧でくくれそうな世界だ……。

Herbie Hancock/Sextant

Sextant posted with amazlet at 09.11.17 Herbie Hancock SBME (2008-02-01) 売り上げランキング: 31930 Amazon.co.jp で詳細を見る  Dirk_Digglerさんにいただいたジャズ/フュージョンの音源を淡々と紹介していくよシリーズ。本日はハービー・ハンコック、1973年のアルバム『Sextant』について。これはすごくブッ飛びましたね。ハービー・ハンコックといえば「誰かが既に出したアイデアを洗練させて、グラミー賞を取ったりする商売上手なブッディスト」というイメージがあったんですが、こんなにキレキレでヤバいポリリズム・ファンクをやっていた時期があったとは知りませんでした。一曲目からシンセサイザーを引き倒し、リズム・ボックスを導入……新しい機材を使うのが楽しくて仕方がないような暴れっぷりが最高です。ハービー・ハンコックが、“アガパン期”のマイルス・デイヴィスにもっとも接近した瞬間なのかもしれませんが、それでいてキチンとまとまりがあるからとても聴きやすい。

ザ・男の料理 ステーキ

 仕事がキツかったので、ガッツリいきたくなった。

集英社「ラテンアメリカの文学」シリーズを読む#1 ボルヘス『伝奇集』

伝奇集 (ラテンアメリカの文学 (1)) posted with amazlet at 09.11.15 ボルヘス 集英社 売り上げランキング: 669150 Amazon.co.jp で詳細を見る  先日、インターネットで古本情報を検索していたところ、集英社の「ラテンアメリカの文学」シリーズ全18巻が手ごろなお値段で売っていたのに 出会って しまい、引越し前かつ金欠 *1 にも関わらず、購入に至ってしまった私です。でも、出会ってしまったんだから仕方ないよねぇ……と自分を納得させて、律儀に一冊目のボルヘスから読んでいます。『伝奇集』。岩波文庫から鼓直訳でも出ていますが、こちらは篠田一士の訳。篠田訳のほうが、現代語っぽい印象がありました。収録作品も微妙に違っている。この版だと『伝奇集』、『エル・アレフ』、『汚辱の世界史』が入っています。これらの収録作品は以下の本でも読めます(訳者はバラバラ)。 伝奇集 (岩波文庫) posted with amazlet at 09.11.15 J.L. ボルヘス 岩波書店 売り上げランキング: 10639 Amazon.co.jp で詳細を見る 不死の人 (白水Uブックス―海外小説の誘惑) posted with amazlet at 09.11.15 ホルヘ・ルイス ボルヘス 白水社 売り上げランキング: 181334 Amazon.co.jp で詳細を見る 砂の本 (集英社文庫) posted with amazlet at 09.11.15 ボルヘス 集英社 売り上げランキング: 121114 Amazon.co.jp で詳細を見る  篠田訳の『エル・アレフ』だけが、この本でしか読めない……はず *2 。まぁ、そんなにこだわりはないですが。巻末の訳者解説は結構おもしろかったです。「十九世紀の小説をある程度読み、それを理解してからでないと、二十世紀の小説なんかはわかるはずもないなどという、迂遠な教条主義は、いまの若い読者にはないようだ。これこそ、文学作品の本当の読み方で、つまらないエセ歴史主義の虜になって、小説を読んだところで、なにが獲得できるというのだろうか」だそうです。  『伝奇集』は結構、自分で小説を書くときに露骨にパクったりしているので、手元においてパラパラめくったりすることが多かったのですが、久

Don Cherry/Brown Rice

Brown Rice posted with amazlet at 09.11.15 Don Cherry A&M (2003-03-03) 売り上げランキング: 26882 Amazon.co.jp で詳細を見る   id:Dirk_Diggler さんのご好意により、結構な量のジャズ/フュージョン系の音源を仕入れましたので、ちょっとずつレビュー的なものを買いていこうと思います。まずは、ドン・チェリー、1976年のアルバム『Brown Rice』から。ドン・チェリーというとオーネット・コールマンと一緒にバリバリのフリー・ジャズをやる人で、ほっぺたをすごく大きく膨らませてポケット・トランペットを吹く人……というイメージが先行していて、先日『Symphony for Improvisers』というアルバムを聴いたときも *1 、内容がフリー・ジャズとハード・バップのマリアージュ的趣きを持つ割合マトモな作品だったので驚いたのですが、このアルバムも結構驚きました。シタールが鳴ったり、アフリ感なヴォイスがてんこもりだったり、ブラック・スピリチュアルな感じがするのですが、根幹にあるのはやはりハード・バップで、めちゃくちゃにホットな演奏が繰り広げられている。破綻が無い。これもフリー・ジャズという実験の成果のひとつなのかもしれません。が、やはりこういうものを聞いていると、オーネット・コールマンは特殊だったのだな……と感じざるを得ない。 *1 : 久しぶりに買ったジャズのCDについて - 「石版!」

武満徹 ≪秋≫

武満徹:琵琶、尺八、オーケストラのための「秋」 posted with amazlet at 09.11.14 沼尻竜典 コロムビアミュージックエンタテインメント (2004-12-22) 売り上げランキング: 64946 Amazon.co.jp で詳細を見る  「そういえば、ノーヴェンバーであるなぁ」と思ったので武満徹の≪ノーヴェンバー・ステップス≫を聴こうかと思ったのだが、生憎と我が家のCD棚には存在しないのだった。てっきり持っているとばかり思っていたのだが、記憶違いだったようである。その代わりに≪ノーヴェンバー……≫の続編的な作品である≪秋≫を聴いた。これは≪ノーヴェンバー……≫と同様、琵琶と尺八とオーケストラという楽器編成の作品である。邦楽器と洋楽器の共演だが、そこでは融合や調和が目指されているとは思えない。むしろ、オーケストラが生み出す豊かな色彩感と、琵琶と尺八のモノトーンとのコントラストが際立つばかりである。特に琵琶の音色は「荒涼」という言葉が頭に浮かぶほどだ。よって、この作品のなかでは「豊かな秋」と「寂しい秋」というふたつの秋のイメージが対比される。

曽我部恵一『昨日・今日・明日』

昨日・今日・明日 (ちくま文庫) posted with amazlet at 09.11.12 曽我部 恵一 筑摩書房 売り上げランキング: 9177 Amazon.co.jp で詳細を見る  私は、曽我部恵一の良いリスナーであるとは言えない。その証拠に、サニーデイ・サービスのCDも曽我部恵一バンドのCDも一枚として持っていないし、だれかに借りて聴いたこともなかった。彼の音楽に触れたのは、たまたま行ったロック・フェスですごく遠くから、ぼんやりと眺めているときだけだった。「おんなのこーー!!」「おとこのこーー!!」とか叫んでるのを見て、この人はなんだかロック・スターっぽいオーラを持った人だなぁ……それもとびきりアポロン性の……と思ったものだ。それだけ。繰り返すが、私は、曽我部恵一の良いリスナーであるとは言えない。自分のバンドでカバーをやったりしてるのに……。彼のエッセイを読んでみたのもほんの気まぐれで「きっと毒にも薬にもならない文章がたくさん載っているのだろう」とか思ったからだった。仕事が忙しかったりすると、時折そういった文章が読みたくなる。  予想通りに、この本は毒にも薬にもならない文章がたくさん溢れていて、とても良かった。サニーデイで活動していた曽我部が九〇年代の後半にこの本に収録された文章群を書いた頃、彼は現在の私とそう歳が変わらない二〇代の青年であった。この年齢といえば、もう立派な大人、である。この本を読んで、ひとつ個人的な教訓を得られるとしたら、おそらく、そういった立派な大人とみなされる年齢の男が、こういうクサいことを書いていても許されるのだ、ということだろう。もちろん、それはある種の人間に対して、特別に許されることかもしれないが、ほとんど三〇歳になっていても「青春!」とか言っても良い人たちがいるのだ。そのことはほとんど希望のようにすら思える。たぶん、身近にそういう“許された人”がいたら、うっとおしいと思うのだろうが。 Magic Christian Music posted with amazlet at 09.11.12 Badfinger Capitol (2004-05-12) 売り上げランキング: 94659 Amazon.co.jp で詳細を見る  読み終わったら、なんとなくバッドフィンガーが聴きたくなって大きな音で聴いた。

ハンナ・アレント『イェルサレムのアイヒマン――悪の陳腐さについての報告』

イェルサレムのアイヒマン―悪の陳腐さについての報告 posted with amazlet at 09.11.11 ハンナ アーレント みすず書房 売り上げランキング: 144476 Amazon.co.jp で詳細を見る  読了。前回この本について書いたときは *1 前半ぐらいまでしか読んでなかったのですが、後半もみっちり面白かったです。アイヒマンに対してのアレントによる評価とは、おおよそエピローグにあるこのセンテンスに集約されているでしょう。「アイヒマンという人物の厄介なところはまさに、実に多くの人々が彼に似ていたし、しかもその多くの者が倒錯してもいずサディストでもなく、恐ろしいほどノーマルだったし、今でもノーマルであるということなのだ(P.213)」。これに、どこまでも愚鈍な男、というのがくっつく感じです。この本のなかで、アレントはイェルサレムの法廷の正義を厳しく追及しているのですが、それは彼女の評価と、法廷の評価が大きく乖離していることも理由のひとつなのでしょう。  ドイツが敗戦したのち、いろいろ上手いことやってアルゼンチンに逃げ失せたアイヒマン。彼が行方不明になってる間に、なんだかアイヒマンはすっごいナチの大物ってことになってたみたいなんですね。「アイヒマンはむちゃくちゃ悪いヤツだったんだ!」みたいに話が膨らんでた。この原因のひとつに、当時のドイツの官僚制度が複雑過ぎて、ほとんど全貌が明らかになってなかったことがあるらしいんですが(アイヒマンの上司も複数いた時期があったりして、命令系統も複雑)、とにかくその評判にイスラエル政府は騙されちゃってたわけ。アルゼンチンから拉致までして捕まえてみたら、アイヒマンは愚鈍で、しかも仕事ができない中間管理職みたいな小人物だった。そこでイスラエル政府は引っ込みがつかなくなっちゃって、無理矢理アイヒマンを悪者に仕立てようとしたんじゃねーのか? なんて話も出てきます。えらそーに正義者ぶってるけどさ、それって胸を張ってできたことなの? 正義ってそういうことじゃなくねーか? って分析したりする。この辺はすごく面白い。とくに「結局、アイヒマンは何が悪くて処刑されたっつーのよ」っていうくだりね。そこではアイヒマンの責任問題も厳しく問われることになる。  あと、第一二章ではハンガリーのユダヤ人社会に触れられてるんですが、ここも

『UMA-SHIKA』第二号の発表に際して

……いともたやすく行われるえげつない行為を前にして、我々は戦争を起こさなくてはならない。例えば「二枚目のジンクス」に対して、あるいは「二年目のジンクス」に対して。しかし、あなた方は心配する必要がない。今回も最高の原稿が集まった。古代ギリシャの詩人たちが祈ったように、我々は、この作品群が上手く読まれることを祈る。ムゥサに。そして、クロード・レヴィ=ストロースに。MJに。三沢に。大澤真幸に。結婚詐欺師に。ふかえりに。 関連エントリ 『UMA-SHIKA』第2号の表紙と目次 - UMA-SHIKA(公式) 文フリのブースが決まりました&『UMA-SHIKA』第二号の編集がはじまりました - UMA-SHIKA(公式) 夢の城 - 「石版!」 夢の書物 - 「石版!」 文芸同人「UMA-SHIKA」、第九回文学フリマに出店決定! - UMA-SHIKA(公式)

『イェルサレムのアイヒマン』を読んでいる

イェルサレムのアイヒマン―悪の陳腐さについての報告 posted with amazlet at 09.11.02 ハンナ アーレント みすず書房 売り上げランキング: 206156 Amazon.co.jp で詳細を見る  積読してあったハンナ・アレントの『イェルサレムのアイヒマン』を読んでいます。これは二〇世紀の思想家が書いた著作のなかでも、特別に面白く、また切実な問題を取り上げられた名著であるなぁ……と読みながら漠然と考えてしまいますが、ホントに面白い。訳は結構硬いし(アレントの翻訳はいくつか読んでいますが、そのなかでもかなり硬い部類に感じられます。題材がアレントの専門である政治哲学よりもずっと現実的なのに……というギャップが問題なのかもしれませんが)、それなりに高価な本なんだけど「読んだほうが良いよ(面白いから)」とオススメしたいですね。悪とはなにか、正義とはなにか、良心とはなにか……をめぐる分析と問いかけは読んでいてヒリヒリしてきます。冒頭から、第二次世界大戦中、ユダヤ人を収容所に移送する仕事の責任者だったアイヒマン(世界史上最も合理的で大規模な殺人国家事業に一役買っていた男)を裁く側の正義までもが問われるのですが、ここはとてもグッとくる。  アイヒマンという人物が「悪の陳腐さについての報告」という副題にもあるように実に陳腐な人物、っていうか、何をやっても大したことができないのに「俺はこんなもんじゃない」とか「俺はまだ本気出してない」とか言ってそうなボンクラ、にも関わらず、なぜかカントの『実践理性批判』を読んでたりする……という不可解さがとても興味深いのですが、強制収容所の「処理能力」が殺さなきゃいけないユダヤ人の数に追いつかなくなってきた頃のアイヒマンの仕事っぷりも面白いです。これはドイツが大きな敗退を繰り返し始めた頃と時期が重なっている。  もともとアイヒマンは、傷跡なんかを見るのも気が引けてしまうような気弱な男で、上司から「お前、ちょっと収容所でどんな風にユダ公が殺されてるか見てこいや」と出張を命じられれば超絶ブルーになってしまうようなオッサンなのです。で、ユダヤ人がバンバン殺され始めてた初期は、そういった行為に対して良心の呵責を覚えたりしたこともある。その男が徐々に自分の仕事が殺人の手助けであることを忘れているかのように振舞い始め、どんどん仕事に

OS MUTANTES/Haih...Ou Amortecedor...

Haih...Ou Amortecedor... posted with amazlet at 09.11.01 Os Mutantes Anti (2009-09-08) 売り上げランキング: 52515 Amazon.co.jp で詳細を見る  口を開くたびに「金がない、金がない」と言いがちな今日この頃ですが、当ブログのアフィリエイト・リンクからCDや本などを買ってくださっているお客様のおかげで、ムタンチスの新譜を買うことができました。本当にありがとうございます。 id:mthdrsfgckr さんもブログに書かれておりましたが *1 、まさかムタンチスの新譜がリアルタイムで聴けるなんて夢にも思っておりませんでしたので、本当に驚きましたね。しかも、超クオリティが高い! 今年はカエターノ・ヴェローゾの新譜が最高でしたけれど *2 、正直甲乙つけがたい。音の雰囲気は七〇年代に活動していた頃よりもずっと整然としてしまって、ストイックな印象さえあるのですが、芯のほうに素晴らしいサイケデリアが潜んでいる感じが最高です。本当にスゴい。難点といえばジャケットを含めたアート・ワークがダサすぎることぐらい。オルタナ・ロックみたいな曲もあれば、歌謡曲みたいな曲もあり、実に多彩で聴いていて楽しくなってきます。あと、ファズね。ブラジルのサイケと言えば、下品なファズだと思うので、そのあたりの相変わらずさ加減が嬉しいです。 *1 : 2009-10-20 - 日々の散歩の折りに *2 : Caetano Veloso/Zii E Zie - 「石版!」